ピシャン……ピシャン……。
う……冷たい――。
頬に冷たいものを感じて、俺は薄らと重い瞼を開いた。
……鍾乳石から水が滴って来たのか――。
ぼんやりする頭で、頬の水滴を拭いながら今自分がどんな状況だったかを思い出す。
そうか、俺は親父と家を出てきて、洞窟で夜を明かそうとしていたんだった。
寒いな、火はどうなっている?
寝返りを打ち焚き火の方を見やると、炎が消えかけ燻っていた。明かりを失った洞窟内では、薄暗く視界がとても悪い。
「何だよもう。見えないし寒いし最悪じゃねぇか」
ローブにくるまり震えながら機嫌悪く毒づく。
……火、付け直すか。
自分でやらないと誰もやってくれないので、仕方なく身体を起こした。
「あーもー手元が見えん。ライトはどこだ」
枕にしていた手荷物の中を探り、手回しライトを取り出す。欠伸をしながら不機嫌にレバーを回転させ、充電を行った。
こんなもんか? 適当に数分間充電し、ライトのスイッチを入れると水滴が滴る硬そうな岩肌が照らし出される。親父はこんな寒い中のんきによく寝てられるな――。
「あれ、親父?」
親父がいない。
ライトで辺りを一周照らしてもそこに親父の姿は無く、俺ひとりだけが取り残されているような状況だった。
トイレか?
……いや、親父の荷物も無い。
これは一体どういう状況だ。
「なんだよ、あのオッサン」
暗闇でポツンと胡座をかいたまま、眠気が一気に晴れていくのを感じる。
俺はこのままここにいて良いんだよな?
妙な胸騒ぎを覚えながら、ひとまず焚き火を付け直す。火の子を爆いて再び炎が揺らめき始めても、その灯りに照らし出されるのは俺ひとりだけだ。
「……」
その後、しばらくそのまま待っていた。三十分ほどは経っただろうか。それでも親父は戻ってこなかった。
外を出歩く用事も無いだろうし、俺を置いたまま洞窟の先に進む理由も無いはず。じゃあ親父は一体どこへ?
これは明らかにおかしいぞ。
どうする?
「四時過ぎだろ、朝まで待ってみるか」
下手に動くとそれはそれで面倒臭いことになりそうだ。
改めて寝る気にもなれず、懐中時計片手にひたすら時間が過ぎるのを待つことにしたのであった。